「離婚したいけれど、相手が話し合いに応じてくれない」「直接顔を合わせて交渉するのが精神的につらい」——そうした状況で利用を検討するのが離婚調停です。正式には「夫婦関係調整(離婚)調停」と呼ばれるこの手続きは、家庭裁判所を舞台にした話し合いの場です。裁判(訴訟)とは異なり、裁判官が一方的に結論を出すのではなく、調停委員を仲介役として当事者双方が合意を目指します。

日本には「調停前置主義」というルールがあります。これは、離婚に関する訴訟を起こす前に、原則としてまず調停を経なければならないという決まりです(家事事件手続法257条1項)。つまり、話し合いがまとまらなかったとしても、調停を飛ばしていきなり裁判を起こすことは基本的にできません。離婚の法的手続きにおいて、調停はほぼすべての方が通る「最初の関門」なのです。

この記事では、離婚調停の全体像を時系列に沿って解説します。申立て前に何を準備すべきか、裁判所での当日の動き、そして調停がどのような形で終わるのかを具体的にお伝えします。

申立て前の準備——調停を有利に進める土台づくり

争点を整理する

離婚調停では、離婚するかどうかだけでなく、親権、養育費、財産分与、慰謝料、面会交流、年金分割など複数の論点を同時に話し合うことができます。「自分は何を求めたいのか」を事前に整理しておくことが大切です。

具体的には、以下の点についてノートなどに書き出してみてください。

  • 離婚の理由(いつ頃から、どのようなことがあったか)
  • 親権はどちらが持つことを希望するか
  • 養育費の月額についての希望と根拠
  • 共有財産の一覧(預貯金、不動産、自動車、保険、退職金見込みなど)
  • 慰謝料の有無と希望額
  • 面会交流について(頻度、場所、連絡方法)

離婚を切り出す前の段階で迷いがある場合は、離婚を考えたときに最初にやるべきことの記事もあわせてご覧ください。

資料・証拠を集める

主張を裏付ける資料があると、調停委員に事情を伝えやすくなります。たとえば、不貞行為が原因であれば、LINEのスクリーンショットや写真などの証拠。DVが原因であれば、診断書や警察への相談記録。養育費を決めるための源泉徴収票や確定申告書などが典型的な資料です。

資料は早い段階で集めておくことをおすすめします。相手に離婚を切り出した後では、証拠が隠されたり削除されたりする可能性があります。

費用の見通しを立てる

調停の申立てそのものにかかる費用は、収入印紙代と郵便切手代をあわせて数千円で、比較的低コストです。弁護士に依頼する場合は別途費用がかかります。離婚にかかるお金の全体像は離婚にかかる費用の内訳で詳しく解説しています。

申立て——手続きの始め方

申立先と必要書類

離婚調停の申立ては、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います(当事者の合意で別の裁判所を選ぶことも可能です)。必要な書類は以下のとおりです。

  • 調停申立書(裁判所の窓口やウェブサイトで入手可能)
  • 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 年金分割のための情報通知書(年金分割を求める場合)
  • 収入印紙 1,200円分
  • 連絡用の郵便切手(管轄裁判所に金額を確認)

申立書には、申立ての趣旨(何を求めるか)と動機を記載します。動機欄は「性格が合わない」「暴力を振るう」「異性関係」など該当するものに印をつけます。

申立て後の流れ

申立書が受理されると、通常、申立てから1か月半から2か月程度先の日にちが期日として指定されます。相手方にも呼出状が送付されます。相手方が無視して出頭しなかった場合、調停は不成立となり、その後は訴訟を検討することになります。

期日当日——裁判所での1日の流れ

到着から待機まで

調停の期日には、指定された時間に家庭裁判所に出向きます。まず受付で事件番号を伝え、待合室に案内されます(受付がなく、そのまま指定された待合室で時間まで待つパターンもあります。)。ここで重要なのは、申立人と相手方は別々の待合室に通されるということです。廊下で顔を合わせる可能性はありますが、待機中も話し合い中も、基本的に相手と直接対面することはありません。

調停室でのやり取り

調停室は会議室のような小さな部屋です。ここに調停委員2名(通常は男女1名ずつ)が待機しています。まず申立人が呼ばれ、20~30分程度話を聴かれます。その後、申立人は待合室に戻り、今度は相手方が調停室に呼ばれます。このように交互に話を聴く形式が繰り返され、1回の期日はおおむね2時間程度です。

調停委員は民間から選ばれた有識者であり、裁判官ではありません。ただし、調停の背後には裁判官が控えており、法的な判断が必要な場面では裁判官が関与します。

期日は複数回にわたる

1回の期日ですべてが解決するケースは多くありません。一般的には3回~5回程度の期日を重ね、各回の間隔は1か月から2か月です。したがって、調停全体では半年から1年程度の期間を見込んでおくのが現実的です。もちろん、争点が少なく双方に歩み寄りの姿勢があれば、2回ほどで成立することもあります。

持ち物チェックリスト

期日当日に持参すべきものをまとめました。忘れ物があると手続きが滞る場合がありますので、前日に確認しておきましょう。

  • 呼出状(期日通知書):裁判所から届いた書面。事件番号と期日が記載されています
  • 本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカードなど
  • 印鑑:印鑑を使う場面は少ないですが、念のため持参するとよいでしょう
  • メモ帳と筆記用具:調停委員からの質問やアドバイスを記録するため
  • 主張をまとめた書面:伝えたいことを整理した資料。口頭で述べにくいことも書面なら落ち着いて伝えられます
  • 関連資料のコピー:源泉徴収票、通帳のコピー、不動産の登記簿謄本、証拠写真など、主張の裏付けとなるもの
  • 飲み物:待ち時間が長くなることがあります。裁判所内に売店がない場合もあるため、持参が安心です。特に、夏場は裁判所の冷房が弱く、水分補給をしないと熱中症になるリスクもあります。なお、飲食厳禁の場合もありますので注意してください。

調停委員に伝わりやすい話し方

「事実」と「気持ち」を分けて伝える

調停委員に状況を伝える際、感情的な訴えだけでは正確な事実関係が伝わりにくくなります。「ひどいことをされた」だけでは具体性に欠けます。

効果的な伝え方は、「何月何日に、どこで、何があったか」という事実を先に述べ、それに対して自分がどう感じたかを添える形です。たとえば、「2025年3月、夫が無断で自宅を出て3週間帰宅しませんでした。その間、子どもが毎晩泣いており、精神的に非常につらい日々でした」というように、事実と感情を区別して話すと、調停委員も状況を正確に把握できます。

結論を先に伝える

限られた時間のなかで調停委員に自分の考えを伝えるには、「私は○○を希望しています。その理由は……」という順序で話すのが効果的です。経緯から話し始めると、何を求めているのかが伝わりづらくなります。

養育費であれば「月額8万円を希望します。算定表に基づくとこの金額が相当と考えます」、財産分与であれば「自宅の売却益を折半することを求めます。ローンの残債は○○万円で、査定額は○○万円です」のように、数字や根拠を明示するとより説得力が増します。

沈黙しない、でも感情的にもならない

調停委員からの質問に対して黙ってしまうと、主張がないと受け取られるおそれがあります。すぐに答えられない質問には、「少し考えさせてください」や「次回までに確認してお伝えします」と返答するだけでも印象は大きく異なります。

逆に、相手への怒りが強い場合でも、調停室で声を荒らげたり相手の人格を攻撃したりするのは逆効果です。調停委員はあくまで中立的な立場ですが、冷静に論理的に話す人のほうが信頼を得やすい傾向があります。感情をぶつけたい気持ちは自然なことですが、調停の場では「事実ベースで丁寧に話す」ことを意識してみてください。

弁護士の同席を検討する

調停には弁護士を代理人として同席させることができます。弁護士がいることで、法的な論点を正確に整理した上で調停委員に伝えられる、相手方の主張に対して的確に反論できる、不利な条件での安易な合意を防げるといったメリットがあります。

特に、相手方が弁護士を付けている場合や、財産分与の対象が複雑な場合には、弁護士への依頼を検討されることをおすすめします。

調停の終わり方と次のステップ

調停成立——合意に至ったとき

双方が条件に合意すると、調停は「成立」となります。裁判官の立ち会いのもと、合意内容が調停調書に記載されます。この調停調書は確定判決と同じ効力を持ちます。つまり、相手が取り決めた養育費を支払わない場合などには、調停調書に基づいて強制執行(給料の差押えなど)が可能です。

調停成立後は、10日以内に市区町村役場に離婚届を提出する必要があります(届出義務は原則として申立人にありますが、相手方が婚姻にあたり氏を変更した場合には、調停調書上工夫をすることで相手方が離婚届を提出する形になります。)。届出には調停調書の謄本が必要ですので、裁判所に交付を申請してください。

調停不成立——合意に至らなかったとき

どちらかが条件に納得せず合意に至らない場合、調停は「不成立」で終了します。不成立になった場合、次に取りうる選択肢は主に2つです。

  • 離婚訴訟(裁判)を提起する:調停を経たことで、訴訟を起こす要件を満たします。裁判では裁判官が判決で離婚の可否や条件を決定します
  • 審判離婚:まれに、裁判所が職権で「調停に代わる審判」を下すことがあります。ただし、2週間以内に異議を申し立てれば審判は効力を失い、離婚訴訟を提起する必要が生じます。

取下げ——申立人が手続きをやめるとき

申立人はいつでも調停の申立てを取り下げることができます。「もう少し当事者間で話し合ってみたい」「別の方法を模索したい」など、理由はさまざまです。取下げは相手方の同意なく行えますが、再度申立てをすることは可能です。

調停を経験された方に伝えたいこと

離婚調停は、多くの方にとって人生で初めての法的手続きです。裁判所という場所、調停委員という初対面の人、限られた時間——不安を感じるのは当然のことです。

しかし、調停は「戦いの場」ではなく「話し合いの場」です。裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、双方が納得できる着地点を探すための仕組みです。自分の考えを丁寧に伝え、相手の主張にも耳を傾ける姿勢が、結果として自分にとっても良い解決につながることが少なくありません。

焦って不利な条件に合意する必要はありません。わからないことがあれば調停委員に質問してください。「次回までに考えさせてください」と持ち帰ることは全く問題ありません。

そして、調停の準備や進行に不安がある場合は、弁護士に相談することをご検討ください。弁護士が入ることで、法的に妥当な条件かどうかの判断材料を得られるだけでなく、精神的な負担も軽くなります。

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