2026年4月1日、改正民法(令和6年法律第33号)が施行されました。いわゆる「家族法改正」と呼ばれる今回の改正は、離婚後の親権のあり方を中心に、養育費、親子交流、財産分与など、離婚に関わる制度の多くを見直す大規模なものです。

施行から約3か月が経過した現在、改正法のもとでの実務が徐々に動き始めています。この記事では、改正法の主なポイントを整理するとともに、これから離婚を考えている方や、既に離婚済みの方が知っておくべき事項をまとめます。

改正法の全体像——何が変わったのか

今回の改正は、子の利益を最優先に考えるという理念に基づき、離婚後の親子関係に関するルールを現代社会の実情にあわせて再設計するものです。主な変更点は次の6つに整理できます。

  • 親の責務の明文化——父母が子の人格を尊重し、子の利益のために協力すべきことが民法に明記されました
  • 離婚後の共同親権の導入——従来は単独親権のみでしたが、共同親権を選択できるようになりました
  • 法定養育費制度の新設——養育費の取り決めがない場合でも、法律上当然に発生する最低限の養育費が定められました
  • 親子交流を進める仕組みの整備——離婚前の段階から親子交流を試行的に実施する制度が設けられました
  • 財産分与の請求期間の延長——離婚後2年から5年に延長されました
  • 親権者変更・養子縁組のルール見直し——親権者の変更要件や養子縁組の手続きが整理されました

以下、それぞれの改正点を掘り下げて解説します。

親の責務の明文化

改正民法では、父母は「子の利益のため」に互いに協力して子を養育する責務を負うことが条文上明記されました。

これは、離婚後であっても父母双方が子の養育に責任を持つという考え方を法律の基本原則として示したものです。従来も解釈上は当然とされてきましたが、明文化されたことによって、調停や裁判での主張の根拠として引用しやすくなっています。

実務的に重要なのは、この規定が「親権」とは独立した一般原則として置かれている点です。親権を持たない親であっても、子の養育に関与する責務があることが、より明確に読み取れるようになりました。

離婚後の共同親権——制度の仕組みと判断基準

今回の改正でもっとも注目を集めたのが、離婚後の共同親権の導入です。改正前は、離婚後は必ず父母の一方を親権者と定めなければなりませんでしたが、改正後は父母双方が親権を共同して行使する形を選択できるようになりました。

協議離婚・調停離婚の場合

父母の合意があれば、離婚届において共同親権を選択できます。合意が成立しない場合は、従来どおり家庭裁判所の調停・審判によって親権者を定めることになります。

裁判離婚の場合

家庭裁判所が、子の利益の観点から、共同親権とするか単独親権とするかを判断します。DV(配偶者暴力)や虐待のおそれがある場合には、裁判所は単独親権を定めるものとされており、共同親権が強制されることはありません。

日常的な行為と緊急時の扱い

共同親権が定められた場合でも、子の日常生活に関する行為(通院、習い事の送迎など)については、各親が単独で判断できます。また、子の利益のために緊急に必要な行為(急な手術の同意など)も単独で行うことができます。進学先の決定や転居など、子の生活に重大な影響を及ぼす事項については、原則として父母双方の合意が必要です。

この「日常行為」と「重要事項」の線引きは、今後の実務や裁判例の蓄積によって具体化されていくことになるでしょう。

法定養育費——取り決めがなくても発生する最低限の養育費

改正法によって新たに導入されたのが「法定養育費」の制度です。これは、離婚時に養育費の取り決めがなされなかった場合であっても、法律上当然に発生する最低限の養育費を定めるものです。

法定養育費の金額

法定養育費の具体的な金額は法務省令で定められており、現在は子1人あたり月額2万円とされています。あくまで「最低限」の水準であり、子の生活に十分な金額とは限りません。実際の養育費は、父母の収入や子の年齢・需要に応じて、より高額に取り決めることが通常です。

先取特権による保護

改正法では、養育費の請求権に先取特権(一般の先取特権)が付与されました。これは法定養育費に限らず、協議や調停・審判で定めた養育費にも適用されます。先取特権がある債権は、他の一般債権者に優先して相手方の財産から回収でき、また、公正証書や調停調書がなくても、父母間の書面による合意があれば差押えの申立てが可能になります。先取特権の対象となるのは、子ども1人あたり月額8万円を上限とする範囲です。

従来、養育費の不払い問題は深刻でしたが、この制度によって、少なくとも最低限の養育費を確保する手段が法的に用意されたことになります。

親子交流を進める仕組み

改正法は、親子交流(旧法下での「面会交流」)についても重要な変更を加えています。

試行的実施制度

家庭裁判所は、離婚が成立する前の段階で、親子交流を試みることを当事者に促す制度が新設されました。離婚調停の最中であっても、子と別居親との交流を試行的に行うことで、離婚後の親子交流の在り方を見きわめる機会とする趣旨です。

もっとも、DVや虐待のおそれがある場合や事案によっては、試行的実施は行われない場合もあります。安全確保等が最優先とされています。

祖父母等の交流

改正法では、父母以外の親族(祖父母など)が子との交流を求めることができる規定も整備されました。家庭裁判所は、子の利益のために相当と認めるときに限り、祖父母等と子の交流を認めることができます。

財産分与の請求期間——2年から5年へ

離婚後の財産分与を請求できる期間が、従来の2年から5年に延長されました。

離婚時に財産分与について十分な取り決めができなかった方にとって、請求の機会が大幅に広がったことになります。特に、離婚時にはDV被害の影響で交渉どころではなかったケースや、離婚後に相手方の隠し財産が発覚したケースなどで、この延長は実務的に大きな意味を持ちます。

なお、この5年の期間は改正法施行日(2026年4月1日)以後に離婚した場合に適用されます。施行日前に離婚し、既に従来の2年の期間が経過している場合には延長の対象にはなりません。

既に離婚済みの方への影響

改正法施行前に既に離婚している方が、自動的に共同親権に変更されることはありません。現在の単独親権はそのまま維持されます。

ただし、改正法施行後は、離婚済みの方であっても、家庭裁判所に対して親権者の変更を申し立てることが可能です。共同親権への変更を希望する場合には、家庭裁判所の審判を経て、子の利益に適うと認められれば、共同親権への変更が認められる余地があります。

一方で、元配偶者から一方的に共同親権への変更を申し立てられる可能性もあります。DVや虐待を理由に単独親権としていた場合などは、変更に対する防御的な対応が必要になることも考えられます。

施行から3か月——ここまでの実務の動き

改正法が施行された2026年4月1日から約3か月が経過しました。この間の実務的な動きについて、いくつかの傾向を述べます。

協議離婚での共同親権の選択

協議離婚の届出において共同親権を選択する事例は、徐々に出始めていますが、全体としてはまだ少数にとどまっている印象です。新しい制度への理解が浸透するには、もう少し時間が必要と思われます。

調停・裁判での対応

家庭裁判所では、改正法に対応した調停運営が始まっています。親権に関する調停において、共同親権の可否や具体的な分担方法について、従来にはなかった論点が議論されるようになっています。具体的な裁判例の公表は今後の課題です。

法定養育費の実務

法定養育費の制度は、主に養育費の取り決めなく離婚した場合のセーフティネットとして機能しています。施行直後であるため、先取特権を実際に行使した事例の集積にはまだ至っていませんが、今後の運用が注目されます。

よくある質問(Q&A)

Q. 離婚後は必ず共同親権になるのですか?

いいえ。共同親権はあくまで選択肢の一つです。父母の合意があれば共同親権を選ぶことができますが、合意がない場合は裁判所が判断します。

Q. 改正前に離婚しましたが、自動的に共同親権に変わりますか?

変わりません。改正法施行前に離婚した方の親権関係は、そのまま維持されます。ただし、施行後は家庭裁判所に親権者変更の申立てをすることが可能になりました。変更が認められるかどうかは、子の利益の観点から裁判所が判断します。

Q. 共同親権の場合、子どもの進学先はどうやって決めるのですか?

進学先の決定は子の生活に重大な影響を及ぼす事項にあたるため、原則として父母双方の合意が必要です。合意が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて決定を求めることになります。なお、通院や日常的な習い事の送迎など、日常生活に関する行為は各親が単独で判断できます。

Q. 養育費の取り決めをしていませんが、法定養育費は請求できますか?

改正法施行日以後に離婚した場合は、養育費の取り決めがなくても法定養育費(現在は子1人あたり月額2万円)が当然に発生します。取り決めがない状態で相手方が支払わない場合は、法定養育費の先取特権を利用した回収手段を検討できます。なお、法定養育費は最低限の金額であるため、お子さんの実際の生活費に見合った養育費を改めて取り決めることをお勧めします。

Q. 離婚の際に財産分与を取り決めませんでした。今からでも請求できますか?

改正法施行後の離婚であれば、離婚から5年以内に財産分与を請求できます。

Q. 祖父母が孫に会いたいと言っています。改正法で面会の権利が認められたのですか?

改正法は、祖父母等の親族が家庭裁判所に対して子との交流を求める手続きを整備しました。しかし、祖父母に交流の「権利」が認められたわけではなく、交流を認めるかどうかは子の利益の観点から裁判所が個別に判断します。子にとっての利益が認められない場合は、交流が認められないこともあります。

Q. DV被害を受けていましたが、相手から共同親権への変更を申し立てられる可能性はありますか?

可能性としてはあります。ただし、裁判所はDVや虐待のおそれがある場合には単独親権を維持するものとされています。元配偶者から親権者変更の申立てがあった場合は、DVの経緯や現在の状況を裁判所に適切に主張する必要があります。お一人で対応される前に、弁護士にご相談されることを強くお勧めします。

改正法の内容は多岐にわたり、個別の事情によって影響の度合いは異なります。離婚を検討中の方、既に離婚済みで改正法の影響が気になる方は、お気軽に当事務所までご相談ください。離婚問題の詳細ページもあわせてご覧ください。

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