- 労働条件は書面で明示が義務。アルバイトでも同じ
- 労災保険は1人でも原則加入。最低賃金・残業代は小さな店にも適用
- 解雇のハードルは高い。入口の設計と日々の記録が事業を守る
初めての採用、何から手をつける?
お店や事務所を開いて軌道に乗ってきた。一人では回らなくなってきたので、アルバイトを雇いたい。
練馬で開業された店主さん・個人事業主さんの悩みです。うれしい悩みである一方、「人を雇う」ことは、法律的には大きな一歩です。何となくで始めてしまうと、後で「言った言わない」のトラブルや、思わぬ請求につながりかねません。
この記事では、初めて人を雇うときに最低限おさえておきたい法律のポイントを、チェックリスト形式で解説します。
結論:出発点は「労働条件を書面で示すこと」
先に結論です。初めての採用で一番大切なのは、労働条件(仕事の内容・時間・賃金など)を、書面で明示することです。これは事業主の法律上の義務であり、同時に、将来のトラブルからお店を守る最大の防御でもあります。「アルバイトだから口頭でいいでしょ」は通用しません。パート・アルバイトでも義務は同じです。
以下、チェックリストの形で見ていきましょう。
チェック1:雇用契約書・労働条件通知書を作る
採用が決まったら、労働条件通知書(または労働条件を明記した雇用契約書)を渡します。主な記載事項は次のとおりです。
- 契約期間(期間の定めの有無、更新の基準)
- 就業場所と仕事の内容(改正で将来の変更の範囲も明示が必要になりました)
- 始業・終業時刻、休憩、休日
- 賃金の額、計算方法、支払日
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
ひな形は厚生労働省のサイトでも公開されています。大切なのは、実態と合った内容を書くこと。実際の働き方と書面がずれていると、書面があっても紛争の火種になります。
チェック2:賃金——最低賃金と残業代の基本
最低賃金:東京都の最低賃金(時給)を下回る賃金は、たとえ本人が同意していても無効です。最低賃金額は毎年に改定されるのが通例なので、金額は必ず最新のものを確認してください。
残業代:法定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超えて働かせるには、労使協定(いわゆる36協定)の届出が必要で、割増賃金の支払い義務が生じます。「小さな店だから関係ない」ということはありません。
なお、未払い残業代の請求権の時効は、近年の改正で当面3年とされています。記録(タイムカードやシフト表)をきちんと残す習慣が、事業主自身を守ります。
チェック3:保険——「1人でも」入るものがある
人を雇うと、各種の保険関係の手続が発生します。
- 労災保険:従業員を1人でも雇えば、原則として加入義務があります(アルバイト・パートも対象)
- 雇用保険・社会保険(健康保険・厚生年金):労働時間や事業形態などの要件に応じて加入義務が生じます
どの保険にどの範囲で加入すべきか、具体的な手続は社会保険労務士(社労士)の専門領域です。要件はたびたび改正されている(社会保険の適用拡大など)ため、採用前に社労士に確認されることをおすすめします。当事務所からの連携のご案内も可能です。
チェック4:就業規則——10人未満でも「ルール作り」を
就業規則(職場のルールブック)の作成・届出が法律上義務になるのは、常時10人以上を雇う事業場です。
とはいえ、10人未満でも、遅刻・欠勤の扱い、服装や身だしなみ、SNSの利用、機密情報の扱いなど、簡単なルールを文書化しておくことにはトラブル予防の効果があります。ルールがないと、注意や処分の根拠があいまいになりがちだからです。
チェック5:辞めてもらうのは簡単ではない、と知っておく
意外に思われるかもしれませんが、ここが一番大事なチェックポイントです。
日本の法律では、解雇は簡単には認められません。客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がない解雇は無効とされます。「なんとなく合わないから」「売上が落ちたから」だけでは、後で解雇無効を争われ、まとまった金銭の支払いを求められるリスクがあります。
だからこそ、入口(採用)が大切なのです。
- いきなり無期の雇用(正社員等)ではなく、有期契約や試用期間の活用を検討する(ただし試用期間中でも自由に辞めさせられるわけではありません)
- 問題行動があれば、その都度注意し、記録に残す
- 辞めてもらいたい事情が生じたら、解雇を通告する前にご相談ください。進め方によって結果が大きく変わる場面です
具体例:カフェを開いた店主がアルバイトを雇うケース
イメージしやすいよう、架空の例でご説明します(実際の事案ではありません)。
練馬区内でカフェを開業した店主が、週3日勤務のアルバイトを1名採用。開業支援の相談の中で、次の準備をしました。
- 労働条件通知書を作成(時給・シフトの決め方・まかないの扱いまで明記)
- 労災保険の手続(社労士と連携)
- シフト表と勤怠記録の保存ルールを決める
- 簡単な店舗ルール(レジ操作・SNS投稿・退職時の引継ぎ)をA4で2枚に文書化
かかった手間は数日分。しかしこの「最初の型」があるおかげで、2人目・3人目の採用はスムーズに進み、勤怠や賃金をめぐるトラブルも起きていません。採用の仕組みは、最初の1人のときに作るのが一番安上がりです。
まとめ:最初の1人こそ、丁寧に
- 労働条件は書面で明示(労働基準法15条)。アルバイトでも同じです
- 最低賃金・残業代のルールは小さなお店にも適用されます
- 労災保険は1人からでも原則加入。保険手続は社労士へ
- 解雇のハードルは高い。入口の設計と日々の記録が事業を守ります
雇用のルールは改正が多く、最低賃金のように毎年変わる数字もあります。個別の事情による部分も大きいため、実際の採用にあたっては最新の情報を確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。社会保険・労働保険の手続は社会保険労務士に、税務は税理士にご相談ください。
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