- 承継先は親族・従業員・第三者の3パターン。小さなお店でも道はある
- 引き継ぐのは「賃借権・許認可・借入(保証)」の3点セット
- 準備には数年単位の時間が必要。元気なうちに動き始める
「自分の代で閉めるしかないのかな」
練馬の暮らしに、商店街は欠かせません。駅前や住宅街の通りに、何十年も続く八百屋さん、パン屋さん、居酒屋さん、理容室。
一方で、店主さんたちの悩みもあります。「子どもは会社勤めで、店を継ぐ気はないみたいだ」「常連さんのためにも続けたいが、体力的にあと何年できるか」「結局、自分の代で閉めるしかないのかな」。
お店を閉めるのも一つの立派な選択です。ただ、「継がせ方を知らないまま、閉店しか思いつかない」のはもったいない。この記事では、小さなお店の事業承継の基本を解説します。
結論:承継先は3パターン。準備には数年単位で時間がかかると思ってください
先に結論です。お店の引き継ぎ先は、大きく3つあります。
- 親族に継がせる(子ども・親戚)
- 従業員に継がせる(長年働いてくれた店長・スタッフ)
- 第三者に譲る(同業者や、お店を始めたい人への事業譲渡・M&A)
「うちみたいな小さな店をM&A?」と驚かれるかもしれませんが、近年は小規模な飲食店や個人商店の事業譲渡も珍しくなくなりました。国が設置する事業承継・引継ぎ支援センター(東京都にもあります)など、公的な相談窓口も整っています。
そして大事なのは時間軸です。後継者探しから引き継ぎ完了まで、数年程度かかることも珍しくありません。「引退の1年前に考え始める」では、選択肢がほとんど残っていないのです。
何を引き継ぐのか——お店の承継「3点セット」
「店を継がせる」と一口に言っても、実際に引き継ぐものは多岐にわたります。特に法律面で重要なのが、次の3つです。
① 店舗の賃借権(借りているお店の権利)
商店街のお店の多くは、店舗を借りて営業しています。この「借りる権利」は、大家さんの承諾なしに勝手に他人へ譲ることはできないのが原則です。承諾なく譲ると、賃貸借契約を解除されるリスクすらあります。
親族への承継でも、賃借人の名義をどうするか、大家さんとの話し合いが必要になる場合があります。第三者への譲渡なら、大家さんの承諾は必須の関門です。大家さんとの関係づくりと早めの相談が、承継の成否を分けると言っても過言ではありません。
② 許認可(営業のための役所の許可)
飲食店の営業許可など、商売に必要な許認可は、原則としてお店(人・法人)に紐づいています。後継者が引き継ぐ場合、許可の取り直しや承継の手続が必要になることがあります。業種によってルールが異なるため、ここは早めの確認が欠かせません。
③ 借入と個人保証
お店の借入(運転資金・設備資金)には、店主個人が連帯保証しているのが通常です。承継の際にこの保証をどうするか。後継者が引き継ぐのか、外せるのかは、後継者にとって最大の不安要素です。
この点、経営者保証に関するガイドラインという金融界の指針があり、一定の条件のもとで、承継時に個人保証を外したり、二重保証を避けたりする道が開かれています。「保証があるから継がせられない」と諦める前に、金融機関との交渉の余地を検討する価値があります。
具体例:飲食店を「常連の従業員」に譲ったケース
イメージしやすいよう、架空の例でご説明します(実際の事案ではありません)。
練馬区内で30年続く定食屋の店主(70歳)。子どもたちに継ぐ意思はなく、閉店も考えましたが、10年働いてくれている調理担当の従業員(45歳)が「自分が継ぎたい」と手を挙げました。
そこで、次のような段取りで3年かけて承継を進めました。
- お店の値段を決める(設備・在庫・のれん代をどう評価するか)
- 大家さんに相談し、賃借人変更の承諾を取り付ける
- 営業許可を後継者名義で取得
- 事業譲渡契約書を作成(譲渡代金の分割払い、屋号の使用、引き継ぎ期間中の店主の関与などを明記)
- 常連さんへのお披露目期間を設けて、顔つなぎをしてから引退
ポイントは、口約束で進めず、契約書に落とし込んだことです。従業員への承継は信頼関係があるだけに「まあ、あうんの呼吸で」となりがちですが、代金の支払いが滞ったり、引き継ぎの範囲で認識がずれたりすると、長年の信頼関係ごと壊れてしまいます。
注意点:早く始めるほど、選択肢は増える
- 後継者候補との対話は早めに。「継ぐ気があるか」は、聞いてみないと分かりません。案外、身近に手を挙げる人がいるものです
- お店の「見える化」を。帳簿・契約書・許認可の書類を整理しておくだけで、承継のハードルは大きく下がります
- 廃業を選ぶ場合も準備が必要。原状回復(店舗を借りたときの状態に戻す工事)の費用や、取引先・従業員への対応など、閉めるにもお金と段取りがかかります
まとめ:お店の未来は「選べる」うちに考える
- 承継先は親族・従業員・第三者の3パターン。小さなお店でも道はあります
- 引き継ぐのは「賃借権・許認可・借入(保証)」の3点セット。それぞれ法的な準備が必要です
- 経営者保証は、外せる可能性を検討する価値があります
- 準備には数年以上かかることも。元気なうちに動き始めましょう
事業承継は、契約・不動産・保証・相続(店主に万一のことがあった場合)が絡む法律問題の総合格闘技です。個別の事情によって最適な進め方は大きく変わりますので、方針を固める前にご相談いただくのが一番です。当事務所は練馬駅から徒歩5分。地元のお店の「その先」を、一緒に考えます。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。税務(譲渡に伴う税金・相続税)は税理士に、許認可手続は行政書士に、登記は司法書士にご相談いただく場面もあります。
事業承継のご相談は企業法務のサービスページへ。練馬区の事業者様は練馬区の中小企業法務のご案内もご覧ください。